大切なのは動機や気持ちでなく、結果なのだ
なんだろう、このあからさまにうさんくさい名前の著者は。
大変申し訳ないことですが、わたしの本書に関する最初の印象はそこから始まりました。
ご自身で書いたと思われるプロフィールにも、んん~?
『公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。』?
『戯作者』?
戯作がわからないので調べてみると『戯作(げさく、ぎさく、けさく、きさく)とは、近世後期、18世紀後半頃から江戸で興った通俗小説などの読み物の総称』とありました。
小説家ではなく、作家でもなく、この時代にあえて戯作者という名乗り…?
と、みずからうさんくささを誘発するかのような内容が書かれています。
うさんくさいですが、独特の個性といいますかユーモアといいますか、そういったものがにじみ出ていて、そういうものはわたしの好みなのでした。
そこへきて本書タイトルが『偽善のすすめ』。え、偽善をすすめちゃうの?
カバー裏を読むと『オトナはみんな偽善者』?
どういうこと!?
こういった諸々の個性に惹かれて、試しに読んでみることにしたのですが…
結果として、目からウロコがボロボロ落ちるような優れた研究・考察文でした。
本書は3人の登場人物の対話形式で展開が進められます。
蕎麦屋をやっているパオロさんと、そこに来た中学生の男女ふたり。
学生ふたりを読書側としておいて、パオロさんが本書のテーマにもなっている『偽善』について、自らたくさんの文献を調べ、考察していきついた答えをつらつらと語っている内容。
著者はとても文章がきれいで、スマートで、上手。
読みやすさとはこのことか!と思ったほどです。
本当のことなのか仮設定なのかは不明ですが、著者がイタリア生まれの人だったとしたら、わたしは改めてちゃんと国語を学ばなければいけない…とヘコむほどに美しく整っており読みやすい文章です。
数多くの文献をよく調べられていることがわかる内容でもあります。
何を読んだのか、つまりどれが出典なのかが明記されたうえで引用され、そこへかみくだいた解説が与えられています。
説得力のある解説内容で、今までのわたしの中にあった『偽善』の認識がことごとく覆されていきました。
偽善の本来の定義は、本心を隠してうわべだけ善人っぽくふるまうこと、心にもない善行をすること。
最大のメッセージはふたつあります。
- 人間は誰もがみんな、偽善者なのだということ。
- 偽善は結局善行をともなっている。しない善よりする偽善だということ。
電車でお年寄りに席を譲ろうとする行為。
なんだか自分がイイ人ぶってるみたいで恥ずかしい、気まずい…。
万一、断られたりでもしたら耐えられない。
そういって結局、お年寄りに席を譲りませんでした。この選択は、自分への言い訳が先だって、お年寄りが席に座れるといった結果がともなっていません。
偽善はおこなわれていませんが、善もおこなわれていませんね。
いっぽう、心では「人助けとか、めんどくせえ!」と思っている政治家がいるとします。そんな政治家が同じ車両に居合わせて、いわゆる『ポイント稼ぎ』でイイ人ぶってお年寄りに席を譲ったとします。
たいていの人はこれを偽善といって批判する風潮にありますが、しかしお年寄りが席に座れて助かったという善はここに成立しています。
前述の例とちがって、ここには善行がちゃんとあるのです。
これはパオロさんが書いた解説のほんの一部です。
しかもそのままの引用ではなくてわたしが本書を読んで心得た偽善への新しい解釈のもとに、自分にわかりやすいように整理して醸成した例です。(スミマセン)
パオロさんの『偽善のすすめ』論はこのような例たくさん出して、読者に問いかけ、考えさせながら、これまでの偽善のとらえかたが間違いだったことを教えます。(偽善に批判的だったら、の話ですけど)
国会議員の不祥事。
政治の汚職事件。
24時間テレビの寄付。
駅前でのチャリティー活動。
これらをどうとらえるか。
その見かたが大きく変えられた一冊です。
現代だけじゃなくて、これまでの歴史上で『偽善』がどのように認知されてきたかも振り返り、教えてくれます。これがまたおもしろい。
どの時代にも偽善に対してはわりと批判的な割合が多いです。
しかしそれは日本の話。
海外では偽善に対して、もっとおおらかで寛容な見かたを持っているようです。
そういった点でも日本は外国に遅れているなあと感じた次第です。
詳しい解説は本書のなかに。
パオロさんのおかげで今度読みたい本に一冊増えました。中野好夫の『悪人礼賛』。
さっそく図書館に予約を入れました。
今まで自分の偽善行為にもんもんとしていましたが、明日からは心安らかに堂々と偽善に徹することができそうです。
自分のしている行為が、本当に正しいのかつい悩んでしまうあなたに、おすすめです。
本の情報
偽善のすすめ: 10代からの倫理学講座 (14歳の世渡り術)
- 作者: パオロ・マッツァリーノ
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2014/02/13
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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目次
第1章:偽善って、なんだろう
第2章:偽善の実態を見てみよう
第3章:偽善くん波瀾万丈 下積み艱難辛苦編
第4章:偽善くん波瀾万丈 成り上がり絶頂編
第5章:偽善くん波瀾万丈 暗雲凋落編
第6章:偽善くん波瀾万丈 不死鳥編──偽善者になろう
著者、パオロ・マッツァリーノさんのブログもありましたので、ぜひ。
ただしCSS(スタイルシート)が全然活用されておらず、ウェブデザイナーとしてはさすがにひとこと言いたくなるほどに、文字が読みづらいです。
パオロさんもはてなブログに移行したらよろしいのに。